電光石火×一騎当千
「ははは! 俺のこの化け物じみた姿を見て、躊躇なく間合いを詰めて刀を振り回してきた人間など、貴様しかおらんぞ?
いやあ、相手が俺で良かったねェ。他の魔王だったら本気で今頃、瞬殺されてたかもだねえ」

「え……?」

カミナルは整った眉を寄せ、神野に胸を刺し貫かれてから今まで全く痛みがなかったことにようやく気づいた。


確かにそう見えたはずだが、カミナルは刀で貫かれていなかった。

神野が手にした扇が、胸元に当てられていただけだった。


「どういうことだ──?」

慌てて後ろに跳び下がり、神野から距離をとってカミナルが呟いた。

ふふふ、と神野は手にした扇で口元を隠して含み笑いをした。

「俺はね、認めた相手には敬意を払って優しく接することにしておるのさ。
ビビらなくても、貴様ら二人には危害なんぞ加えんよ」

タイホウとカミナルは顔を見合わせた。

「魔王が、人間に喧嘩を売られて──やり返さないってのか?」

タイホウは信じがたい思いで、翼を広げた化け物を睨んだ。

「喧嘩!」と言って、神野は扇をぱちりと閉じた。

「俺には喧嘩なぞ売られた覚えはないがねェ、ひょっとして今のでこの神野悪五郎に喧嘩を売ったつもりか人間」

虹の光を放つ無数の銀色の目玉に見据えられ、タイホウとカミナルはごくりと喉を鳴らす。

「まあ他の魔王なら喧嘩を売られたと勘違いする奴もおるかもしれんがねェ。──ああ、いやいや、喧嘩ってのはこの戦のことを言っとるのかな。
ふっくくく……だったらそれは貴様らの幻想、いや妄想だな」

「どういう意味だ!?」

「いやだねえ、そう睨むなよ」

神野はにやついた。


「こいつはな、俺と山ン本との勝負の一つだったのさ」
< 42 / 46 >

この作品をシェア

pagetop