恋恋【短】
ピンポーン
時は黄昏。
何にも気力が湧かず、ただ呆然としていたときだった。
来訪者を知らせるだけの単調なその音に俺は自然と眉が寄る。
…誰だよ。
面倒くさくて、居留守を使おうかとも思ったが、何度も鳴らされてはいい迷惑だ。
そう思って俺は渋々重たい腰を上げた。
「…どちらさん?」
すっきり伸びてしまった前髪をかきあげながら少し重たい扉をあける。
『…久しぶり、楓(かえで)。』
懐かしいその声に俺は閉じていた目を慌てて開いた。
自分の目を疑う。
…嘘だろう?
夢でも見ているのだろうか?
だとしたら、なんて幸せな夢なんだろう。
「…未來(みらい)?」
俺の視線の先には、ここに居るはずのない、愛しい人が立っていた。
『会いに来ちゃった。』
目の前の彼女は目元をほんのり紅く染め、照れたようにはにかんで見せる。
その変わらない可愛い表情に、俺はよろよろと前に進むと、衝動的にその華奢な体を抱き締めた。
すっかり冷え、ひんやりした体。
「…会いたかった…。」
嬉しさのあまり泣いてしまいそうで、俺は掠れた声を絞り出す。
そんな俺に答えるかのように、俺の背中にも腕が回った。
『…あたしも…。』
玄関先だということもすっかり忘れ、俺たちは互いの存在を確かめるようにきつく抱き合った。