恋恋【短】
『…きもち〜。』
海についた途端、彼女は砂浜向いて走り出す。
…離れた手を寂しいと思う。
そのくらい俺は未來に会えて嬉しいんだ。
もう二度と放したくないくらいに…。
そんなことをボーッと考えているうちにも未來は波打ち際に移動していた。
脱いだサンダルを手に、パチャパチャ水を散らして走り回っている。
優しい月明かりに照らされ、楽しそうにはしゃぐその姿はまるで天使のようだ。
『…楓。』
俺が近づいていくと未來は静かに振り向いた。
さっきまであんなに楽しそうにしていたはずなのに、俺を見つめるその顔は真剣で。
「………。」
そのせいで、未來の言いたいことを言われずとも察した俺は未來の体をおもいきり抱き締める。
だけど、未來に俺の温もりが伝わることはなかった。
…なんでだよ。
なんで、お前は温もってくれないんだよ。
俺がどんなに力を込めて抱き締めても未來に俺の体温が移ることはない。
どんなにがんばっても未來の体は氷のように冷たいんだ。
俺はそれが悔しい。
その意味がわかっているからこそ、悔しくて堪らないんだ。
『…楓、ごめんね?』
俺の胸に顔を埋め、呟く未來。
…そんなこと、言うな。
『ごめんね。…大好き。』
なんだよそれ。
何お別れみたいなこと言ってんだよ…。