恋恋【短】
俺は未來の頭に顔を乗せたまま、何も言えない。
返事をした瞬間、未來が消えてしまいそうで怖かった。
『あたし、もう帰らなきゃいけない。』
未來がそう言った瞬間、俺の力は無意識に強くなった。
嫌だ、放したくなんかねぇよ。
「…行くな。行くなよ、未來…。」
声が震える。
言っただろ?
俺は駄目なんだよ、お前が居ないと。
なのに、またひとりにするのかよ。
『…楓、大好き。ずっと、ずっと、楓が大好き。だから…幸せになって?』
未來も震えた声をだす。
胸元が湿ってきているのは、きっと気のせいなんかじゃないだろう。
「…無理だよ。お前が居なきゃ幸せになんてなれねぇよ…。」
そう言う俺の胸を未來は容赦なく突き返す。
思わぬ不意打ちに、つい腕を離してしまった。
未來は泣いていた。
でも、いつもと同じ、優しい笑みを浮かべていた。
『…楓、約束しよう?
楓は、悔いなく生きて。
あたしずっと待ってる。
何十年でも待つから。
だから、楓があたしのとこに来たら今度は一緒にはじめよう?
ひとつになって生まれよう?
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に終わろう?
楽しいことも辛いことも全部一緒に乗り越えていくの。
それってすごく素敵でしょう?』
…馬鹿。
そんな約束、聞かないわけにいかねぇじゃんか。
ずるいよ、未來は。
「……約束、だからな?」
この目に、未來を焼き付けておきたいのに、俺の涙が邪魔をする。
泣くなよ、未來が見えねぇだろ。
しだいに月明かりだけではない、青白い光が未來を包んでいく。