愛なんて簡単に語るな
「分かった。わたしも一緒に抜けようか?」
「ううん」
 あたしは少しだけ笑って首を横に振る。財布から自分の分の料金を取り出し芹香に渡した。
「ふたりで抜けたら目立つし、みんなにまた気を遣わせちゃうから」
「ひとりで平気……?」
「うん」
 じゃあまた明日。それだけ言うと、曲が一番盛り上がる部分を狙ってそっと部屋を抜け出した。派手なパフォーマンスをしている雪平の友人に注意が集まっていたため、あたしが部屋を出たのはみんなに気付かれないよう小さく手を振ってくれた芹香しか知らなかった。
< 11 / 59 >

この作品をシェア

pagetop