愛なんて簡単に語るな
 10月も半ばになると辺りはすっかり秋色に染まり、先程まで晴天が広がっていたはずの空はすでに日が落ちていた。
 夜風が冷たくて、あたしはカーディガンの袖を引っ張った。
 カラオケ店に背を向け歩き出したとき、後ろからあたしの名前を呼ぶ声がした。
「滝田!」
 驚いて振り返る。見慣れた顔があたしを追い掛けてきていた。
「雪平」
「あー……良かった。まだ近くにいた」
 走ってきたのか、顔を赤くして雪平が荒く息をつく。あたしがいなくなったことに気付いてすぐに探しに来てくれたのだろうか。そう思うとなんだか嬉しくもあり、良心が痛む気持ちもある。
 雪平を見上げると、彼と目が合った。
「帰んの?」
「うん。やっぱりいまは、大騒ぎできるテンションじゃない」
「そうか」
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