愛なんて簡単に語るな
 ふたりで観た映画。手を繋いで歩いた帰り道。ハンバーグが好きだと言ったら、おいしいお店に連れて行ってくれた。
 高校が離れることを悲しむあたしに言ってくれたじゃない。俺が好きなのはずっとマナミだけだよって。
 あなたが好きだと言ったから、ばっさり切ってパーマをかけた髪。可愛いなってキスをして、そっと頭を撫でてくれた優しい手はどこに消えてしまったの。
 陽くん。
 陽くん、陽くん、陽くん。
 ねえ、なんであたしを裏切ったの。
 溢れる涙を拭うことすら億劫だった。声は出さず、大粒の滴が頬を濡らすのをじっと受け入れる。水分を含んだスカートは部分的に重くなっている。
『僕は君の幸せを願えるだろうか。
 僕が幸せにするからと、その一言さえ伝えられないこの臆病な僕が』
 彼女の歌声がどこか遠くに響いた気がした。

 
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