愛なんて簡単に語るな
 ふと思い出した記憶に、ただでさえ疲れている体がまた重くなる。きっと「また泣いてる」と面倒くさそうな顔をされる。
 家に帰りたくない。
 上げかけた腰をゆるゆると落とすあたしに、ギターの彼女は本格的に顔をしかめ出した。
「迷惑なのよ、そんな格好でちょろちょろされると。私まで怒られちゃうじゃない」
 あたしを頭から足の先まで眺めて彼女は言う。そんな格好とはつまり、制服のことだ。
 いいじゃない、あたしは客なのよ。今夜だけの付き合いだと思うとあたしの態度は強気になった。ツンと顔を背けて一言返す。
「帰りたくないんだもん」
 子供っぽい口振りだなとは思ったけれど、そんなことはもうどうでも良かった。彼女の呆れ顔が母のそれと被って、なんとなく意地になっていた。
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