愛なんて簡単に語るな
「嫌いじゃないよね」
 尋ねるというよりは確認するような口振り。バクバクといまだ心臓が鳴り止まないあたしは、首だけを縦に振って返答した。
 彼女がテーブルにふたつ、マグカップを並べる。ふわふわと湯気が揺れるそれらは、どうやらホットココアとブラックコーヒーのようである。
「好きな方飲んで」
 彼女の言葉に、迷わずホットココアを引き寄せる。視界の端で笑われていることに気付いていたけれど、わざわざブラックコーヒーを選んでミルクと砂糖を大量に要求するよりは潔いだろう、と知らん顔を決め込んだ。
 飲み物を届け再びキッチンに向かったはずの彼女は、すぐにドアの隙間から顔を覗かせた。
 あと、となにか言いかける。
 続く内容が予想できずただ視線だけを返すと、一呼吸置いてから彼女が続けた。
「部屋のものあれこれいじられるの嫌いなのよ、私」
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