愛なんて簡単に語るな
 決して強い口調ではなかったそれは、先程の行動を見透かしていたようで妙にあたしを緊張させた。再び頭だけを振って返答する。
 キッチンのドアが確実に閉まるまで、あたしの体は張りつめたままだった。
 なによ、親切心で直してやろうとしたのに、あんなこと言わなくたっていいじゃない。彼女の姿がなくなった部屋でむくれながらも、実のところ、どんな写真が飾られているんだろうという好奇心から手を伸ばしたことも否めなかった。
 ばつの悪さからついつい言い訳を探してしまう。
 そんな自分がなんだか恥ずかしい。
「まあ、いっか……」
 触れることの叶わなかったフォトフレームを横目で盗み見ながら、あたしはすぐに携帯電話を取り出した。
 受信したまま開いていなかった1件のメール。それは芹香から届いたものだった。
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