愛なんて簡単に語るな
 口のなかに広がった味は、思いがけず優しかった。丹念に火を通した玉ねぎに、カレールーの合間から覗くオレンジ色はどうやらかぼちゃのようだ。舌を刺激する辛さはほとんど伝わってこない。
 甘味の強いカレーは、さばさばとした彼女の印象とはほど遠かった。
「甘いカレー、好きなんだ?」
 思わず出た問いに、正面で同じようにスプーンを動かしていた彼女が視線をよこす。
 あまり間を空けずに答えが返ってきた。
「辛い方が好きよ」
 それだけ言って、また黙々とカレードリアを口にする。
 辛い方が好きって、だって……どう考えても甘口でしょ、このカレー。疑問符でひしめく頭を斜めに傾けながら、あたしも、それきり黙って食事をした。

 
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