愛なんて簡単に語るな
 しばらくなにか考えるように遠くに視線を投げていた彼女が、不意にこちらに顔を向ける。
「そろそろ寝よう。明日も学校でしょ」
 言われて時計に目をやると、普段ベッドに入る時間から1時間近く過ぎていた。もうこんなに経っていたなんて、と目を見開く。いろんなことがありすぎて時刻を確認する余裕なんてなくなっていた。
 客用の布団一式を渡されて、彼女が髪を乾かしている間に黙々とそれをセットする。
 いつもなら眠っているはずの時間なのだけど、ちっとも眠気は感じなかった。友人の家でのお泊まりみたいに浮き足立っている自分がいる。友人どころか、相手は今日が初対面の人間であるのだけど。
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