愛なんて簡単に語るな
 言われた内容を一拍置いてから反芻する。ゆっくりと味わうように頭に並べ、ようやく意味を飲み込めた。
「う……浮気を容認しろっていうの?」
 時間をかけてやっと言えた反論がそれだった。
 非難するというよりも、次はどんな恐ろしいことを言われるのかとビクビクしながら返した言葉にはまるで力が入っていない。
「いや」
 思いがけず、彼女ははっきりと首を横に振った。
「初めからあんたとその彼の足並みは揃っていなかったってこと。彼は浮気をする男だった、けれどあんたは浮気されてまで一緒にいることを幸せだとは思わない。だったら無理せず、あんたを幸せにしてくれる男と付き合うべきだわ」
 そういうの、価値観の相違って言うのよ。
 最後をそう締めて、彼女はひとまず口を閉じた。
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