愛なんて簡単に語るな
「ちなみにね。彼の浮気、きっとこれが初めてじゃないよ」
「え、」
「これから彼女と会うって分かってるときに、わざわざ他の女と寝るなんてハイリスクなこと、1回目の浮気ですると思う?」
「………」
 彼女の言葉はまっすぐすぎて、逃げ道が見つけられない。
 もう怒りすら沸いてこないのは、箱のなかから順番に取り出して並べたような正しすぎる言い分に、これ以上抵抗する余力が残っていないからだ。
 告白の時点で愛なんか語っちゃう男、ちょっとどうなのって思うけどね。
 芹香の言葉が頭蓋骨の内側で反響する。ぐわんぐわんと騒ぎ立てるそれは、あたしの脳味噌を揺らしてゆるくとどめを刺した。
 ああ、そうね。そうだったわ。芹香、あなたの言うことはやっぱり間違いじゃなかったみたいよ。少なくとも、あたしが信じた美しい思い出たちよりは。
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