愛なんて簡単に語るな
 翌日学校に行くと、あたしを見つけた芹香がすぐに駆け寄ってきた。
「もーっ、心配させないでよ! ぐったりした顔で帰って行ったと思ったら、『芹香の家に泊まったことにして』なんだもの。びっくりしちゃった。次の日は学校来ないし……あんた一昨日、誰のとこにいたの?」
 早口でまくしたてる芹香に、ごめんごめん、と苦笑いで謝る。そうだった、芹香に説明するのを忘れていた。
「駅前で知り合ったひとのアパートに泊めてもらったの。良いひとだったよ」
「えええ? なにそれ」
 あからさまに表情を曇らせる芹香に少し焦る。でも女のひとだから、とか、ちゃんとご飯も食べさせてくれたし、とか、慌てて言い訳じみた言葉を重ねたみたけれど芹香の表情は晴れない。
 自分でも分かっている。初対面の、それも誰かの紹介でもなく道端で出会っただけひとの家にノコノコ上がり込むなんて、危険以外のなにものでもない。だからこそ芹香に口裏合わせをしてもらったのだ。
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