愛なんて簡単に語るな
「あーあーあー、昼休みなのによくこんな重い空気つくれんな」
「雪平……」
 あたしたちの間に仁王立ちしていたのは、クラスメートの雪平浩司だった。
「雪平こそ、よくこんな重い空気のなか飛び込んでいこうと思うよね」
 嫌味っぽく芹香の口端が上がる。雪平はそれに動じるでもなく、にんまりと笑って見せた。
 それから雪平はあたしの方に向き直ると、ひとつ溜め息を漏らした。どうにもあたしには周囲の人間に溜め息をつかせる素質があるようだ。
「また彼氏となんかあったの?」
「……昨日別れたの」
 ふーん、と雪平からは薄い反応が返ってきただけだった。自分から聞いてきたくせに、と多少の腹立たしさはあったが、特になにを言うでもなくあたしはパック入りのいちごオレを啜った。
 あのタイミングで芹香との会話に割って入ってきた雪平に、今日は感謝していた。
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