天国の窓
 気を失った貴也は
夢を見ました。

綺麗な花々が咲く、
広大な草原を
一人で歩いているのです。

「なんて綺麗なんだ、
 優子に見せて
 あげたいな。」

貴也は持っていた
携帯で
その風景を
何枚か撮ると、
その画像を
メールで優子に送りました。

すると、
送った直後の
タイミングで、
空に窓が
ポッカリと
浮かび上がりました。

その窓からは、
優子が手招きをしています。
窓の奥は、
病室である事が分かります。
貴也は、
すぐに優子のいる
窓に近寄りました。

窓は背の高さ位の
所に有り、
手を伸ばせば
優子の手に届きました。

手を握りしめると、
スーッと、
引き込まれるような
感覚と共に、
貴也が病室に、
逆に優子は草原へと、
入れ替わりました。

その病室は、
優子が入院していた
病室である事が
分かります。

そして、
入ってきた窓は、
貴也が作った
”魔法の窓”でした。

「優子、
 君もこっちに来いよっ。」

そう言って、
手を伸ばそうとしましたが、
それは、
窓ではなくなっており、
テレビの
モニターでしか
なくなっていました。


「何で?
 向こうからは
 入ってこれたのにっ。」

タケシは、
モニターに手を
叩きつけました。

モニターには、
確かに、
先程まで貴也が
いた花畑が映っており、
そこには、
入れ替わった優子がいるのです。

「優子、
 こっちに入ってこいよっ、
 優子っ。」

優子は、
やさしくほほ笑みました。

「こっちは
 私がいるべき所なの、
 貴也君は、
 まだこっちに来ちゃ駄目。」

次第に、
モニターは
暗くなっていきます。

「がんばって…、
 貴也君…。」

画面の暗さに比例して、
その声も小さく、
聞きとれませんでしたが、
その口の動きで、
そう言っている事が
分かりました。

とうとう
何も映らなく
なってしまいました。

「優子っ、優子―っ。」

とうとう
何も映らなくなってしまい、
貴也には、
ただ、
優子の名前を
叫ぶ事しかできませんでした。

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