粉雪-3年後のクリスマス-
 冴えない俺は、ようやく社会人三年目を迎え仕事も慣れてきた。

恋愛同様、どこか抜けているのは欠点でもあるが、好きでそうなったわけではない。


 悪いが、こちとら必死だ。



けれど、人として外したことをしたことはないと、自負している。


 反抗期に母親がどれだけ鬱陶しく感じても、手を上げることはなかったし。

父親が仕事一筋で、家族孝行のカの字も出てこなくとも、尊敬はしていた。


 カノジョ以外の女性と約束だなんて、俺にできるはずがないのだ。


 呆然としてしまった俺に対し、彼女は疑うこともせず話を進めていた。


『あの大観覧車の下で、二十五日0時に……』


 突然の出来事についていけなかった俺は、受話器のむこうで嬉しそうな声をそのまま聞き流してしまった。


「え、あ、ちょっと、待って───!」

 慌てて声をかけるも、空しい電子音がツーツーと返答するだけ。



 まさに、厄日。

そう思わざるを得ない。


何が嬉しくて、三年も付き合ったカノジョにフラれたあげく、間違い電話でクリスマスイブに約束をさせられなければならないんだ。


 というか。

そもそも、あの間違い電話の女の子はナゼ相手を確認しない?

社会人ならば「今大丈夫?」などと、相手の都合を優先する。


さらに、なぜ一方的に自分のコトしか言わないんだ?



 そんな俺でも、八つ当たりのように不服を考えている自分に気づく。

やり場のないこのイライラを、だれかのせいにしようとしているなんて、最低だ。

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