【完】晴 時々 雨



「おねえちゃん、飲みに行こうよ」



あたしの前に立ちはだかったのは

飲みに行こうと言いながらも

もう完全に出来上がった

サラリーマン風のオジサン



いつものことだ



「オジサン、大丈夫?

足フラフラだよ」



あたしは口の端で笑うけれど

相手は優しくされているように感じたらしい



「ちょっと付き合ってよ」



腕を掴んだ左手の薬指には

くすんだ銀色の指輪が食い込んでいる



「もう帰った方がいいよ。奥さん待ってるよ」



あたしはその手を引き剥がそうとするけれど

意外にもがっしりと掴まれ

振りほどくのに苦戦する



「飲みに行くって言ってんだろぉ!」



声が大きくなり

道を行く何人かがチラリとこちらを見た



でも立ち止まる者はいない



いつものことだ


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