「さようなら。」は桜いろ
と父親は冷たく良い放った。
早紀は小さく首を横に振り、

「聞いたよ、お母さんから。」
と父親に言った。

「そうか。」
と父親が言うと母親に封筒を手渡した。
それを受け取った母親はまた先程の様に泣き始めた。

(何故母親に渡す物を封筒に入れているのか。)
(私に見られたくないから?)

といくつか思案を巡らせた早紀は理解した。

離婚届。

泣き崩れている母親、それをじっと見ている父親。
いつもの家とは違う光景に、そこに居てはいけない様な気がした早紀は部屋に戻った。

部屋の灯りもつけず座り込み、またしばらく涙が止まらなかった。
リビングからは時々、父親と母親の喚く声。
物が割れる音。
何もかも違う、いつもと違う。

(さっきまで私の好きな時間だったのに。)

と早紀はどうにも事態を受け入れる事が出来なかった。

それから玄関のドアがバタンと閉まる音が家の全体に響いた。

(出ていった?)

早紀がそう考えていると、一階から誰かが階段を昇って来る。

(どっちだろう?お父さんかな?お母さんかな?)

と早紀は思った。
早紀の部屋をノックする音。
早紀は狼狽を抑える事が出来ず、返事をしなかった。
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