「さようなら。」は桜いろ
「さっちゃん、ごめんね、お母さんだけど、一階に降りて来れる?」
早紀は安心した。
もちろん、父親だとしても何も不都合は無かったのだが、先程の父親は何か違う、まるで他人の様にさえ早紀には感じた。

「うん、今行く。」
と早紀は答え、恐らく涙でグシャグシャな顔を拭い、一階へ降りた。

リビングへ戻ると、喧嘩の後片付けをしていた母親は早紀に

「お父さんね、やっぱり出ていくって。このお家はお母さんとさっちゃんで住んで良いって。さっちゃん、お父さんと住みたかった?」
と一頻り片付けた母親が早紀に聞いた。

「そんな訳無いじゃん。」
と母親に無理に笑って見せた。
すると母親は思いの外、意気が上がり、いつもの笑顔で

「そっか、じゃあ、お父さんはもう帰って来ないけど、頑張ろうね!」
と早紀に笑って見せた。

それからというもの、父親の私物は少しずつ減り、今では父親が居た事すら分からなくなる様な状態になった。―

1年前の出来事。
ところがそれからの母親は、妙に怒りっぽく、笑顔の少ない人になった。
早紀の事も名前で呼ぶ様になり、食事中の会話も少なくなった。
いつからか、早紀は母親との食事が苦痛だった。
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