「さようなら。」は桜いろ
目のやり場に困った早紀は、自分の絵を眺めながらやり過ごした。
やがて、終了のチャイムが鳴ると、教師が

「では皆さんの作品を書きかけでも構わないので提出して下さい。」
早紀は教師に自画像を手渡すと、そそくさと美術室を出た。
次の授業は体育の為、教室へと急ぐ。
すると後ろから肩をポン、と叩かれたので後ろを振り向くと

「ひでーな。手振ったのに、無視かよ。」
翼が困り顔で早紀に言った。
早紀は返す言葉が見当たらず
「あんまり、他の男子とは話さないんだね。」
と取り繕った。

「他の?…あぁ、馴れない人とは、あんまり喋りたくないからね。」
頭を掻きながら翼が言った。

「私と絵美には初対面なのに、話し掛けたでしょ?」
「同じ班だから仲良くしないと、それに落ち込んでたろ?」
翼の言葉に早紀は

(ほら、こんなモノだよ。絵美はやっぱり大袈裟だな。)

と一人思いに耽っていると

「ん?どうした?」
と、うつむき加減の早紀の顔を覗き込む。

「別に、何でもない。次、体育だから教室で着替えたいんだけど。」
とぶっきらぼうに翼に言った。

「あ、そっか。体育着、取りに行かなきゃ。」
と翼が言うと、小走りで教室へ入って行った。
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