「さようなら。」は桜いろ
「え?」
翼が歩みを止め、早紀の方へ居直る。

「うちも母親しか居ないんだ。」

早紀は

(何故、知らない人にこんな事話すんだろう。)

と考えていた。
最も、今頃絵美とどこかで遊んでいる、『真奈美達』に比べれば、翼を多少は知っているが。

それとも同じ境遇の翼に同感を覚えたか、どちらにせよ早紀は自分の意識に疑問を覚えながらも翼と話した。

「そうなんだ。昼どきに一人なのって、ちょっとさびしいよな。」
と翼が言うと早紀は何故か自分にのみ言われた気がして

「授業中、ずっと一人で居る人に言われたくない。」
と翼に言った。

「え?おまえだってそうじゃん。て言うか、そんな意味で言ってないし。」
と翼はつまらない言い合いを制しようとしたが、早紀は鼻息を荒くし、

「何で授業中にこっち見てるの?」
とまだ譲らない。

「いや、だからそれはそっちだって一緒だろ?」
翼は努めてにこやかに応じた。
むしろその顔はどこか満足げにさえ、見てとれた。

しばしの沈黙が続いたが、早紀が黙って歩き出したのを切り目に、翼も後を着いていった。

黙ったままの二人。
やがて電車が来ると乗り込み、二人並んで座った。
早紀は少し席をずらし、
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