「さようなら。」は桜いろ
二人とも、飲み物に一口つけると、深く椅子に腰掛けた。

先に口を開いたのは翼だった。

「中学、どこ?」
「え?私?」
「他に誰が居るんだよ。」
「…三葉中。」
「へぇ、近いの?」
「近くはないけど。翼くんは?」
「俺は、こっちの人間じゃないから。」
「え?じゃあ、引っ越して来たの?」
「うん。地元に父親を残してね。」
「え?出張?って、違うか。…?」
早紀が思案をしていると翼は

「いや、死別。」
突然の翼の告白。
早紀は、聞いてはいけない事を聞いた。
と思うと同時に、翼にかける言葉が見付からなかった。

「そっか。」
と俯いたままの早紀に翼が

「あんまり深く考えなくて良いよ。」
と微笑んでいる。
翼は続ける。

「そう言えば、早紀の家も、母親しか居ないんだよな?」
と言うと早紀は

「うん。」
と答えた。
翼は

「もしも、言いたくなきゃ、いいんだけど、どうして?」
翼は聞きにくそうに早紀に問いかけた。
早紀は本来なら、他人に自分の境遇を話すのは好きではない。
絵美にさえ、一部しか話していない。
と早紀は自負している。

しかし、翼の境遇を聞いた上で自分の事を話さないのは如何なものかと、早紀は口を開いた。
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