「さようなら。」は桜いろ
「うちは、離婚。色々あって、父親が出てった。」
それだけ言うと早紀は飲み物を一気に飲み干した。

真剣な面持ちで話を聞いていた翼は

「そっか、そっちもそっちで色々大変なんだな。」
頭に後ろ手を組んで天を仰ぎながら言った。

「さっきの翼くんの話だけど、本当?」
堰を切った様に早紀が翼に聞いた。
この質問に流石の翼も少々ムッときたようだった。

「本当?って、どう言う意味?」
「だって、翼くん、そんなに辛い事があったのに、何て言うか、元気だし、明るい。」

早紀の言葉に翼はいつもの様に微笑みながら

「あぁ、なんだ。そんな事か。うん、本当だよ。でも早紀から見て、俺が元気に見えるって事は、きっと少しは乗り越えられたって事かな。」
質問の答えになっていない様な気がした早紀は、え?と聞き返した。

「そりゃあ、ツラかったよ。ツラくてツラくて、友達やなんかが、明るく元気に過ごしていたのが、凄くムカつく事もあったかな、うん、あったよ。でもこのまま過ごしていく日々の中で、俺ってこのままで良いのかなって。親父はそんな俺を見て何て言うかな、って思ってさ。」
そう言った翼の顔は、これまで早紀が見た事の無い、少し大人の顔に見えた。
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