「さようなら。」は桜いろ
呆気に取られている早紀に絵美が近づき、

「早紀、体育館行こうよ?」
と声を掛けてきた。

「体育館?」
と早紀が返すと、

「入学式じゃん、早紀ぼーっとし過ぎだよ。」
と笑って見せた。

「どうしたの?今日はいつもより元気ないけど。」
と絵美が問い掛けたが早紀は

「そう?そうかな…」
と曖昧な返事をした。

(元気か…)

と声にならない様な小声で早紀は呟いた。

実際、早紀は人と言葉を交わすというのが苦手だった。
絵美は少しオシャベリだ。
絵美の事は決して嫌いではない、嫌いではないが正直、少々疎ましく感じる時がある。

体育館に着き、入学式の間も早紀は終始下を向きやり過ごした。
入学式が終わり、再び教室へ。
帰りのホームルームが終わると、いつの間にやら仲良くなっていたクラスメイト同士が

「一緒に帰ろう。」とか「駅まで一緒に。」
と話し合っていた。
そんな皆を尻目に早紀は席を立ち、足早に教室を出る。
すると

「まさか早紀、また先に帰ろうなんて思ってないよね。」
と絵美が横にいた。

「そんな事ないよ。一緒に帰ろう。」
と早紀は取り繕いながら答えた。

校門を出ると絵美が思い出した様に、
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