「さようなら。」は桜いろ
と考えながら天井を見つめる。

「早紀、起きなさい。ご飯よ。」
パートから帰って来ていた母親の声で目を覚ます。
どうやら1時間ほど眠っていたらしい。
早紀は

「うん。」
と返事をして起き上がる。

「制服のままで寝るなんて、シワになっちゃうじゃないの。」
と母親が言う。

(お母さんは小言が多くなったな。)

と早紀は思いながらもまた、

「うん。」
とだけ返した。

母親の小言。
元々はこんなに小言が多い母親ではなかった。
ある日から人が変わった様に口数の多い人になってしまった。

(そう、あの日から…)

早紀は一階への階段を一段、また一段と降りながら思い出す。

―父親の帰りを待ちながら、テレビを見る早紀と母親。
台所で、火にかけている鍋がもうすぐ沸のだろう、シュー、シューと音を立てている。
早紀はこの時間がたまらなく好きだった。

早紀は何気無くテレビを観ていると、母親が妙にそわそわと落ち着きがない事に気付いた。

「お母さん、どうしたの?そわそわして。」
と早紀が母親に問いかけた。
すると母親は

「そう?」
と言ったがやはり落ち着きがない。
母親がそう言うならと、早紀は別段気にしなかった。
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