「さようなら。」は桜いろ
と思案顔の母親。

それから母親から聞いた事は、およそ考えられる、「最悪の事態」だった。

何年も前から父親には別の女性が居り、残業で遅くなっていると思っていたのはそうじゃない、という事。
たまの日曜日の休みに、

「仕事だ。休日出勤だ。」
と父親が言っていたのは嘘だったという事。

しかし、最後に母親から聞いた言葉に早紀は耳を疑った。

相手の女性が身籠った。

その事実を直接母親に突き付けたのは父親だという事。
それを聞いた早紀も震えがおさまらず、何故か涙が溢れてくる。
怒りからか、悔しさからか、涙が止まらない。
今目の前にいる母親を、父親は捨てたのだ、と。

「ごめんね、やっぱり話さなかった方が良かったね。」
と母親は呟く様に早紀に言った。

(そんな事ないよ。)
と言いたかったが、嗚咽で言葉が出ない。
早紀はただ、首を横にしか振る事が出来なかった。

その日は沈黙の続く日だった。

母親も、早紀も泣き止んだ頃、自宅玄関のドアが開く音が聞こえた。
いつもなら陽気に(ただいま)と聞こえる声も無かった。
リビングのドアが開くと、父親が入ってきた。
早紀は父親をじっと見ていると

「早紀、部屋に居なさい。」
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