奇想
夜の学校のプールサイドに私は腰掛けていた。水に足を浸して掻き回す。穏やかだった水面にさざ波が立った。

何かが水の中で光ったような気がして、私はプールの中に降り立った。冬の水はひどく冷たく、底は藻やなにかでぬめっていた。ざぶざぶと掻き分けて進むと、真ん中あたりで三日月が溺れていた。

すくい上げて藻を取ると月は再び呼吸を始めたようだった。手のなかで温めたり服で擦ったりしているうちに、月は黄金色に輝いた。

さてどうしたものかと考えているうちに朝日が昇りはじめた。茜の光に照らされた月は一瞬怯んだように身を縮めたあと真っ白になり、さらさらと崩れた。

小さな三日月が死んだ、たったそれだけの話であった。
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