ピンキーリング

迷ったけどやっぱり声が聞きたくて、通話ボタンを押した



「はい」

「今教室?」

「多喜は?」

「いーから答えろ!」

「・・・違う」

「どこいんの?」

「・・・思い出の場所」


この一言にかけてみた
不安も怖さも寂しさも、多喜に伝わったかな?


「ぜってー動くなっ」



電話を切って怖くなった
何であんなに怒ってたんだろう
沙耶菜だって怒りたいくらい寂しかったんだよ
なのに・・・



あなたの声を聞いたら、怒鳴ったり我が儘なんてできなかった



「バカやろぉ」


隣には息切れした多喜


「た・・・」


謝ろうとしたら抱き寄せられた

それだけで不安なんて吹っ飛んだ


「何やってんだよ」

「・・・探してたんだよ?多喜のこと」

「まじ焦った」

「?」

「千湖とマドンナが沙耶菜が居ないって俺んとこ来たから」

「だって・・・」

「ん?」

「二人が彼氏の話してたから、寂しくなっちゃったんだもん」

「ばーかっ」


そう言ってあたしの髪の毛をぐちゃぐちゃにした



『あんた達ー早く教室に戻りなさい!』


自販機の前を通った先生に怒鳴られて、あたしと多喜は教室に戻った

そのときは嬉しくて嬉しくて
名札を落としたことなんて全然気づかなかったんだ
< 57 / 68 >

この作品をシェア

pagetop