【短編】淫らに冷たく極上に甘く
それからは沈黙で、雪に埋もる足音だけが二人の間に静かに響いていた。
私の地元じゃ珍しくもない雪だけど、この辺りではそうじゃないらしい。
時折雪に浮かれる声が聞こえ、たまに車道を通る車はチェーンもしてなくて、何だか危なかしい運転をしている。
太陽は再び雲に隠れ辺りは薄暗くなり、風が吹き荒れて雪はどんどん強くなる。
「ハァーッ」
かじかむ両手に息を吹きかけて温めて、繋いだ手の温もりを思い出す。
胸が音を立てる。
トクン、トクンッうるさい。
「葵、どうした?」
「なっ、何でもない」
どもるのにも慣れた。
笑われるのにも……。
肩を落として深くため息をつく。
吹雪にでもなりそうな勢いの雪が、ずっしりと乗っかっているような気分になった。
「ほらっ、顔上げてみな?」
そう言われて私はゆっくりと顔を上げた。
……えっ?
そして、目の前に広がる光景に驚きを隠せず、目を見開いて茫然と立ち尽くしてしまった。
「似てるだろ?」
似てるなんてもんじゃない。
頭の中の光景とシンクロする。
やっぱり彼は……。
「行くぞ、ア・イ・ちゃん」
……やっぱり。
記憶にはないけど、彼は私のことを前から知ってるんだ。
含み笑いをして私を強引に引っ張る彼の背中を見つめながら、胸は次第に高鳴り始めていた。