【短編】淫らに冷たく極上に甘く
「私らみんなね、小学校からの友達なの」
笑いの最中、横から萌が話し掛けてきた。
「ねぇ、萌? 何でアイちゃんって」
「あー。ヤツが来たら分かるよ」
チラチラと辺りを見回して、クスクスと笑いを漏らす。
ちょっと待って?
考えられる人は一人だけ。
……もしかして、ヤツって。
「けどさ、さっすが泣き虫改心させただけあるよねー」
「萌に言ったんでしょ!! “見せ掛けだけの友達はいらない”って。かっこいー!!」
「葵って昔と何も変わってないんだね」
何だかみんなフレンドリーに話し掛けてくるものの、言いたい放題で私に喋る暇を与えてくれず。
話はさらにヒートアップしていった。
「アイツさー、今かなり舞い上がってんじゃねぇ? 何たって初恋の」
「ちょっと圭次、それ言っちゃっていいの?」
「ククッ、遅れるアイツが悪いんだよ」
「そうだよ〜!! 学校じゃ猫被ってこっちが被害被ってんだから、これくらいいって、ね、萌?」
「確かにね〜。ヤツと仲いいって知られたら、ヤツ目当てで女が近寄ってきて面倒なことになりそうだし」
「昔は泣き虫のウジウジしたガキだったのにさー。今やアイドルとか言われて」
「ププーッ!! 笑えるよね」
それはもう、よってたかって今ここにいない人のことで大爆笑で、その光景を一人蚊帳の外でちょっと離れて見ながら苦笑した。
まだ話は続いていたけれど、ようやくみんなが言うヤツの存在があの人かもと確信を持つ。
で、それどころじゃなくなった。
だって、もし、本当に今からあの人が来るんだとしたら。
あの日以来……
一体、どんな顔して会えばいいのよ。
私の頭の中はそればかりで、この時はみんなの会話を深く考える余裕もなかった。