【短編】淫らに冷たく極上に甘く
空から舞い降りる雪が頬をかすめ、瞬く間に溶けて消えてゆく。
髪をなびかせる風は冷たいはずなのに、まるで南国にでもいるかのように体は温かい。
「初恋の“アイちゃん”に会えてよかったねーって言ってたの」
「ばっ、なっ。……は? 何でそんなこと」
焦っている彼を見るのは初めて。
心なしか顔も赤い?
「だって私見たし。葵が転校してきた時“アイちゃん”って言って驚いてた春斗を。ね、そうなんでしょ」
ドクン、ドクン。
苦しいぐらいの胸の鼓動。
彼の初恋がアイちゃん?
「あーっ、くそっ!! お前らに話すんじゃなかった」
「アハハッ。昔は泣き虫で純情な男の子だったもんね。けどさー、今も本質は変わってないんじゃない?」
「っるせー」
二人の会話に耳はくぎづけで、私はその場から動けないでいた。
記憶の点が次々と繋がり線となっていく。
昔、数日間一緒に過ごしたあの子が彼で、だから“アイちゃん”って知っていて、出会った公園と似ている場所に連れていって。
「でもさ、こんな偶然って普通ないよね? もしかしたら葵と赤い糸で結ばれてるのかもよー」
で、彼の初恋が、
……わっ、私ーっ!?
ようやく気付いた事実に頭は再びパニックになる。
だけど、それと同時に胸も温かくなってきた。
彼はみんなにいじられて、否定しながらも顔を真っ赤にしていて、屈んでうなだれて顔を上げ、
「ってか、何で葵って呼んでんの?」
「え、だって友達になったし。ねー、葵!」
返事もできずにいる私をようやく見つけ、目を大きく開いたまま固まってしまった。