【短編】淫らに冷たく極上に甘く
「本当に大丈夫だから」
とにかくここを一刻も早く立ち去りたくて、ぶっきらぼうに言い放った。
「そっか、じゃあ頑張ってね」
「ありがとう」
昨日のことは夢だったんじゃないかと思うほどの振る舞い。
なのに……。
通りすがりに彼は、私にだけ聞こえるように囁いてきた。
慌てて立ち去る白崎くんのほうを見ると、
わ、笑ってるし。
口角を上げて嫌味なほどの笑みを浮かべ、元いた場所へと戻っていった。
ほら、ね。
何でみんな気付かないんだろう。
あの裏の顔に。
ううん。正確にはあれが表の顔なんだと思う。
普段のあの優等生っぷりが裏の顔、作り物なんだ。
すぐに女子が群がった白崎くんのほうを見て、小さくため息をついた。
「あーあ、せっかくのチャンスだったのに」
「えっと、中島さん?」
突然声をかけてきたのは斜め前の席の子だった。
「あなたの為にみんなで勉強会でもすれば、クラスの女子とも仲良くなれたかもしれないのにね。
それに白崎くん妙にあなたに構うから、一緒にいれば女子もあなたに近づくかもよ?」
あー、そういうこと。
私はバッグを肩にかけ、ニッコリと微笑んだ。
「焦って友達作る必要もないしね、見せ掛けだけの友達もいらないし」
あれ?
妙に構うって、白崎くんが構ったのって今の一度きりじゃない?
「ふーん、そっか」
そう言って微笑しながら教室を出て行った中島さんに疑問を抱きながらも、私も颯爽と教室を出ていった。