運命の歯車-不思議の国のアイツ-
その思いを振り払うように、アヤは、リョウに声を掛けた。
「・・・今度の日曜日だったな。」
リョウの表情に真剣さが増す。
「・・・うん。」
アヤは、無表情のまま、それに肯く。
いや、無表情の仮面をかぶったままという方が正しい。
今のアヤは、自らの心に湧き上がってくる感情を抑えるのに必死なのだ。
先ほどのクラスメートに対してやったような、笑顔を仮面をかぶることさえ、今のアヤにはできなかった。
「・・・仕事も見つけた・・・住む家も・・・いい場所とは言えないけど、用意した・・・俺と一緒に住もう、アヤ。」
リョウのこんなに真剣な表情は、今まで付き合ってきた中でも見たことがなかった。
「・・・無理よ。」
アヤは、リョウに飛びつきたくなる感情を必死に抑えた。
もし、今、リョウに飛びつけば、どんなに簡単だろう・・・。
アヤの心と体が求めている行動をするのだ。
これほど、幸せなことはない。
しかし、それは、現実を見れば・・・不可能だった。
そして、その現実を見るだけの知性が、アヤには、残念ながら備わっていた。
知性から導き出される答えは・・・言葉に出した「無理。」だった。