運命の歯車-不思議の国のアイツ-
そして、アヤとリョウの唇が、触れる瞬間、急激にリョウの唇が進むべき方向を変え、アヤの唇を避けて、アヤの耳元へと向かった。
今、リョウの唇は、アヤの耳に息がかかるほど、近距離で止まっていた。
「・・・俺は、織田リョウだ。・・・普通の奴が、無理なことでも、俺ならできる。・・・いや、アヤのためなら、俺に無理なことはない。・・・俺のものになれ、アヤ・・・いや、お前は、初めから、俺のものだろう?」
耳元で甘くささやくリョウは、いつもの自信に溢れたリョウだった。
「・・・。」
アヤは、まるで言葉を発することを忘れたかのように何も口に出せなかった。
・・・出したくなかったのかもしれない。
アヤが、何も言わなければ、この甘美な状況にいつまでも浸っておくことができる。
そのことに気付いた本能が、アヤの知性をどこかに隠してしまったのかもしれない。
そして、リョウは、返事を返さないアヤに言葉を続けた。
「・・・日曜日の午後4時に駅で待っている。」
リョウからの駆け落ちの誘い。
素直に肯きそうになる気持ちを必死に押さえ込むアヤ。