運命の歯車-不思議の国のアイツ-
その時、ジュンの横に立っていた彼女が、ジュンの服のスソを少し引っ張った。
「んっ?」
ジュンが、彼女を見る。
「映画始まっちゃうよ。」
彼女は、時計を気にしながら、小声で言った。
「ああ、それじゃ、悪いな、コウ。」
ジュンは、少し名残惜しそうにしながら、コウに視線を戻した。
「ああ、気にするなよ。」
コウは、笑顔でジュンを見た。
ジュンと彼女は、再び歩き始めて、コウから離れていった・・・が、急にジュンが思い出したように立ち止まり、コウに振り返った。
「どうしたんだ?」
いきなり止まったジュンに気付いて、コウの方から声を掛けた。
「・・・最近、ここら辺に紅蓮の奴らが、結構出てるから気をつけろよ。」
ジュンが、真面目な顔でコウに言った。
「・・・ああ、気をつけるよ。」
コウは、自分では気付かなかったが、その表情は、どこか好戦的なものになっていた。
(・・・紅蓮が・・・。)
再び、歩き始めたリョウと彼女の背中を見ながら、コウは、心の中であることに気付いた。
(・・・たぶん、マサヤは、まだ、紅蓮狩りを続けるつもりだろう・・・だったら・・・。)
コウは、ジュンと逆方向へと歩き始めた。
すでに空は、夕暮れから夜へとなろうとしている。
コウの目は、完全に狩りをする者の目になっていた。
標的は・・・紅蓮。
(・・・簡単なことじゃないか・・・マサヤが、次の奴を刺す前に、俺が、紅蓮の奴ら全員を殴り飛ばせばいいんだ。)
コウは、吹っ切れたように紅蓮が集まりそうな場所を探して、街の闇へと消えていった。