【天の雷・地の咆哮】

自分とは距離を置いて接した方がいい。


それは、ロカが初めてニュクスに会ったときに感じた、直感のようなものだった。

まっすぐな強い意志を放つ瞳。

愛されて育った人間だけが持ちえる、純粋な魂。


それを、悲しみの色で塗り固めたくはなかった。

己がどんな人間か、自分自身がいちばん分かっていたから。



・・形だけの夫として俺を疎んじてくれれば、手っ取り早かったのにな。



政略結婚という体裁があったからこそ、首を縦に振った婚姻だった。

王子としてのまともな扱いを受けてこなかったロカにとって、

戦も知らずに中央にいる貴族など、皆、気位だけの高い中身のない人間に思えていた。


兄たちが死んだとたん、掌を返したように自分に媚を売る連中のことだ。

当然、妃になる人間も、ちやほやされて育った底意地の悪い歪んだ性格の女が来ると思っていたのだが。



・・ヴェローナといい、ニュクスといい、俺をさげすんでた連中とは違うからなぁ。

さて、どうしたものか。



ホーエンは、二人の様子を扉の脇から複雑な顔をして見ていたが、

やがて、体格に似合わない俊敏な歩みで、足音もなく部屋を後にした。



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