【天の雷・地の咆哮】
にやにやとニュクスを見下ろしていた男たちの顔から、波が引くように一斉に笑みが消える。
皆、ここがウェスタの中心地に近い事を思い出したのだろう。
異変に気づいた誰かが知らせれば、すぐに役人や軍隊がとんでこれるほどの位置だ。
ケレスはチッと舌打ちし、ニュクスの体に未練を残しながらも体を起こすと、
彼女の小さな手を引いて無理やり立ち上がらせた。
「来い!馬に乗るんだ!」
「嫌です!離して!」
無駄と知りつつも、ニュクスは力の限り抵抗を見せた。
このまま連れて行かれれば、どんな恐ろしい目に合うかもしれない。
ニュクスは、馬にまたがらせようと自分を抱えあげたケレスの腕に、力いっぱい噛み付いた。
ケレスが、ぐうっと唸るのと、地面に放り出されたニュクスが、きゃっと声を上げるのがほぼ同時だった。
「この女~!!」
鬼のように釣りあがった目をしたケレスを前に、ニュクスはきつく瞳を閉じた。
殺される。
そう感じた瞬間。
「その辺にしとけよ。嫌がる女を無理やりなんて、格好悪いぜ」
頭の上から、声が降ってきた。