【天の雷・地の咆哮】
「マルス王子は正統な跡継ぎとは認められないから、
ヴェローナ様のご親戚に養子に出すんじゃないかって話もあるみたいよ」
「え~!それ本当かしら」
「しっ!声が大きいったら!」
人差し指を口に当てた少女を見て、もう一人が掌を口に当てた。
周囲を見渡して、先輩の巫女がいないことを確認すると、声を潜めて続ける。
「にしても、ニュクス様がおかわいそうよね。
早くお世継ぎができればいいのに」
そう言ってから、少女は自分の言葉の持つ意味に気づいた。
「そっか。
マルス様がいる限り、ニュクス様が子どもを産んでも、その子がお世継ぎになるかはわからないのよね」
「そうね。案外マルス様も、城に残るより外に出たほうがお幸せかもしれないわ」
少女たちはそこで話を終えると、神殿の中へと姿を消した。
ウェスタ神殿の中だけではなく、城の内外でも、
神官から還俗して、いつの間にか王の子どもを産んだヴェローナへの風当たりはきつく、
ニュクスに同情的な意見が圧倒的であった。
そのことが、後にロカの運命を左右することになるなどと、
このときはまだ誰も気づいてはいなかった。