【天の雷・地の咆哮】
その年、例年なら夏がすぎて恵みの雨が大地を潤す頃になっても、
雲さえ見えぬ日照りが続き、各地の川や池が干上がった。
そして暑さが和らいだと思ったとたん、底冷えするほどの寒波に見舞われた。
凶作。
国中の誰もがそれを確信する頃、すでに北の地では餓死者が出始め、
地方では小さな小競り合いが頻発していた。
「今、なんと言った?」
ロカの問いかけに、飢饉の対策を話し合うため集められた重臣たちの視線が、
一斉に一人の男に注がれる。
私がそう申しているわけではありません、と前置きしてから、
ロカの倍以上年長者である男は再び口を開いた。
「このたびの国の乱れは、すべてマルス様が御生まれになったせいではないかと、
そういう噂が流布しております」
「それで?」
ロカの鋭い眼光に、男は一瞬たじろぎ、コホンと一つ咳払いした。
「マルス様を、一時手放されてはどうかと」