【天の雷・地の咆哮】
日当たりの良い部屋の窓際で、女は腕に抱いた赤ん坊に笑いかけると、
傍にいた侍女にその子を名残惜しそうに手渡した。
「では、しばらくお願いしますね」
「はい。ヴェローナ様。用があればお呼びくださいませ。
失礼いたします。アニウス様」
ヴェローナに会いに来たアニウスに頭を下げると、侍女は赤ん坊を連れて部屋を出た。
「突然会いに来て申し訳ございません。ヴェローナ様」
二人きりになったのに、臣下の礼をとる兄に、ヴェローナは慌てて駆け寄る。
「兄上様。どうかおやめください。
会いに来てくださって、とても嬉しいのです。
兄上様は、私のことをお許しくださらないのだと思っていたので」
アニウスは、久々に聞いた妹の声に喜びが湧き上がったが、
それよりも彼女の語った内容が気にかかった。
「許さないなど、どうしてそう思う?」
ヴェローナは長い睫を伏せると、今にも消えてしまいそうなほど体を丸めた。
「神官になった身で、子どもを産むなどと、世間の道からはずれてしまいましたから。
お怒りになって会いに来てくださらないのだと思っておりました」