【天の雷・地の咆哮】
アニウスは己のことで頭がいっぱいで、大事なヴェローナを思いやってやる余裕がない自分にいらだった。
「そうではない。お前を政治の道具として利用するのが嫌だったのだ。
それに、妃の親族が権力を握るのは、それこそ人の道に反することだ。
国が、傾く」
ヴェローナの両肩にアニウスの手が置かれると、ヴェローナがゆっくりと頭を上げる。
「では、お許しくださるのですか」
「許すも何も。私のほうこそ許して欲しい。
お前が苦しんでいるときに何もしてやれなかった愚かな兄を」
「兄上様」
二人の視線が間近で交差すると、お互いの唇から緊張が消え、ふっと緩んだ。
仲の良い兄と妹に戻ったかのような静かな時が、二人を取り巻く。
幼い頃のように。
「マルス様はどうだ?」
「はい。とても元気です」
「お前は、どうだ?皆にいじめられたりしていないか?」
「いいえ、皆様、とてもよくしてくださいます。
すべて、ユピテロカ様のおかげです」