【天の雷・地の咆哮】
ヴェローナの口から上った、今一番聞きたくない人物の名前に、
アニウスは無意識に渋面を作る。
「兄上様?」
急に無言になったアニウスの顔をヴェローナが覗き込んだとき、
一人の侍女が、慌てて室内に滑り込んできた。
お話中申し訳ございません、と断ったものの、
そうとうに焦っているのか、侍女は早口で要件を告げた。
それは、今日からヴェローナとマルスを城の外にある別邸へ移すという、
すでにアニウスが知っている内容だった。
・・くそっ!
ヴェローナが傷つかないように、前もって知らせておこうと思ったのに。
ロカ自身の口からでなく、侍女にこんな風に簡単に用件を伝えさせるという方法も、
アニウスにとっては屈辱的なことに思えた。
どんなにヴェローナが動揺することか。
そう思って、彼女を見つめたが。