【天の雷・地の咆哮】
旅支度を整えるために、何人もの人間の足音が近づき、
急にあわただしい雰囲気へと変化する。
「兄上様。お聞きの通りです。
申し訳ありませんが、今日のところはお引取りを」
「あぁ、わかった」
「今日はありがとうございました。
どうかまた、お訪ねくださいませ」
わかった、という風に頷くと、ヴェローナの花のような笑顔がこぼれた。
しかし、それはどこか儚げで、
自分を気遣い、無理やり作った笑顔のように、アニウスには感じられた。
・・昔のままではいられないということか。
何もかもを分け合って生きてきた頃とは違う。
それぞれの立場が、悩みや苦しみを分かち合う邪魔をしている。
ヴェローナが何かに心を痛めている事を悟ったところで、
今の彼女がそれを正直に打ち明けることもなければ、
アニウスが正面からそれを手助けしてやることも、また不可能であった。