【天の雷・地の咆哮】
晴れ渡った空は一見穏やかで、澄んだ空気には何の害もないように見える。
ただ、冷気を運んでくるだけのことだ。
「やれやれ、わがウェスタ国も、近頃ではあちこちに穢れが噴出して」
「まったくですな。
どんな手を使ったんだか、妹を王の嫁にやって権力を我が物にしようなど、
姑息な策を取るような輩がいますからねぇ」
「元神官の女は、神をも惑わせるほどの妖しい美しさを持っているそうですしな。
まぁ、王といっても、しょせん王となるべき学問も身につけていないユピテロカ様ですから。
我々、正義感を持った貴族が、しっかりと導いて差し上げねば」
ヴェローナの部屋からの帰り道、すれ違って頭を下げたアニウスは、
にたにたと笑う“正義感を持った貴族”たちの嫌味に歯軋りをした。
・・くそっ!悪いのは王じゃないか!
ヴェローナは決して自分から男を誘うような女ではない。
あの王が、無理やり手篭めにしたに決まっているのに!
「くそっ!」
手近の柱に拳をぶつけると、ダンッ、と重い音がして体が痺れた。
その時、
「アニウス様」
どこか懐かしい重厚な声が、自分を呼び止めた。