【天の雷・地の咆哮】
「待て、ホーエン。
お前、ヴェローナの、いや、ヴェローナ様の護衛につくというのは本当か?」
ホーエンの、壁と見間違いそうな背中に声をかけてから、
アニウスは周囲を見渡して声を落とした。
「はい。お二人とともに別邸へ行くよう命令を受けております」
「そうか。
王は、お前がヴェローナの許婚であったことなど、知らぬのであろうな」
そうでなければ、わざわざ自分の護衛をはずし、元許婚のところへ行かせたりはしないだろう。
だが、ホーエンの答えは、アニウスの考えを否定するものだった。
「いいえ。王はご存知です」
「なんだと!?」
「お話がそれだけならば、失礼いたします。
急いでおりますので」
ホーエンは、アニウスに向かい窮屈そうに体を二つに折ると、すぐにまた歩き始めた。
腰にはいた剣が、彼の歩調に合わせてカチャ、と音をたてた--。