【天の雷・地の咆哮】
強い風が、木々の間を縫うようにして駆け抜け始めた頃。
ニュクスは庭先でその報告を受けていた。
「そう。では、マルス様ともども、いつもどってくるかわからないということね」
「はい。やはりこの天候不順は、マルス様が御生まれになったせいで」
「黙りなさい、ニナ」
さほど大きな声を出したわけでもないが、ニュクスは力のある瞳でニナをたしなめた。
申し訳ありません、と言いつつも、ニナは困り顔でため息をつく。
「ニュクス様は、人がよすぎます。ヴェローナ様にも対等なおつきあいを許すなんて」
ニナの言葉どおり、ニュクスはヴェローナを軽んじたり、疎んじたりすることはなかった。
王子を産んだ母として礼をつくし、対等どころか、いつでもヴェローナの立場をたて、
自分を誇示する事を決してしなかった。
ニュクスは身をかがめ、地面に落ちた葉を指でくるくると回しながら、
自分でも、不思議だ、と思った。
どうして、こんなにも落ち着いているのだろう。