【天の雷・地の咆哮】
衣の裾をはらうと、ニュクスは何事もないように歩みを進める。
「否やはなしよ。
突然のことで、きっとあちらでの生活も足りないものが多いはずよ。
薪も忘れず用意してね」
「ニュクス様の心は、お美しすぎます。
私は何か、心配でございますよ」
反論の余地さえ与えないニュクスに、ニナは今迄で一番深いため息をついた。
「私は、ニナが思っているほど、心の広い人間ではないから、安心してちょうだい」
・・そうよ。私は多分、彼女を哀れんでいるの。
鏡に映った自分のようで、ほおっておけないから。
***
『ヴェローナ様のところには、きちんと顔を出していらっしゃいますか?』
それは、たびたびニュクスの元を訪れるようになったロカに、
何の裏もなく、ニュクスがかけた言葉だった。
人間、少しの展開の違いで気分に余裕が持てるものだ。
子どもがほしいと素直に口にしたことで、片意地を張る必要のなくなったニュクスは、
彼女自身が思う以上に、彼女に好ましい影響を与えていた。
もちろん、少ない時間を割いて会いに来てくれるロカの態度が、
もっとも効果的に彼女を穏やかにしていたのだが。