【天の雷・地の咆哮】
音もなく。
まるで異能の力を使って、突然その場に出現したかのように。
男は静かに木の幹にもたれていた。
両腕を組んで不敵な笑みを浮かべ。
「てめぇ!何者だ!」
「ん~?
何者って。教わったことないのか?
挨拶はまず自分から、ってさ」
男はのんきな口調で、ここが街中の店先であるかのような落ち着きっぷりだ。
頭がおかしいのではないのか、とニュクスは思った。
とてもこれで助かった、などと胸をなでおろせない。
たんに犠牲者が一人増えただけのことだ。
盗賊たちも、同じ事を考えたとみえる。
一瞬あっけにとられたようにぽかんとしていたが、ケレスが失笑すると次々と笑いが起こった。
てっきり役人でも来たのかと思えば、相手はたったの一人。
しかも、飛び切り若い、たいして力のなさそうな優男だ。
「おもしろい若造だ。死ぬ前に教えてやろう。
俺の名前はケレス様だ。豪腕のケレスといやぁ、ちったあ知られた盗賊だぜ?」